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食いしん坊の愛のこもったひと皿で、季節を味わう。「カフェ レ グルマンディーズ」大野幸恵さんのお菓子とパン、美味しさの秘密とは?

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「美味しいお店は引き寄せあうの?」と思うほど、ここ数年、西原・幡ヶ谷エリアにはレストランやカフェ、パティスリーなどの名店が集結しています。今回ご紹介する「Café Les Gourmandises(カフェ レ グルマンディーズ)」(以下、グルマンディーズ)もその一つ。

グルマンディーズは、パンから作るサンドイッチとデザートのお店。「蕎麦屋が蕎麦を打つように、サンドイッチ屋ならパンから作るのが自然」という考えのもと、オーナーの大野幸恵さんは、パンからデザートまですべてのメニューを手作りしています。今回は、街の気になる人として大野さんにお話を伺いました。

お店はマンションの一階部分で、看板とガラス張りのドアが出迎えてくれる。入り口横には日当たりの良いテラス席が一席。

お菓子に魅了されたきっかけはメレンゲ」

──いつからお菓子やパンに興味を持ちましたか?

小学生のときでした。レシピ本を買ってもらって、バレンタインで初めてお菓子を作ったんです。楽しくて何度も作ったのがメレンゲ。どろっとした卵白に砂糖を混ぜるだけで、ふわふわした可愛いお菓子ができることに驚いて。「お菓子作りってなんて楽しいんだ!」とときめきました。卵白と砂糖のたった2つの材料で作れることにもカッコよさを感じました。

──お菓子作りの原体験はメレンゲだったんですね!

その後もお菓子への興味が募り、高校卒業後は東京の調理師学校に進学しました。すぐに現場に出て働きたかったので一年で修了して、卒業後はパティスリー「ピエール・エルメ・パリ」でパティシエとして働きました。職場はフランス人シェフや、フランスで働いた経験のある先輩が多く、話を聞くうちに「フランスのお菓子を見てみたい」と感じ、ワーキングホリデーで一年間パリに暮らしました。

──パリでの生活はいかがでしたか?

パリに到着した12月は雨が多くて、街中が元気のない暗い季節でした。一人暮らしが初めてだったこともあり不安でしたね。当時はSNSがなかったので、履歴書を持ってパティスリーを訪ねて、働きたいと交渉しました。その甲斐あって、パリ13区にあるパティスリー「ローラン・デュシェーヌ」で働かせてもらうことになりました。

──本場フランスでパティシエとして働いて、感じたことはありましたか?

フランスにおけるお菓子のあり方を目の当たりにしました。フランスの1日は、甘いパンやお菓子の朝食に始まり、夕食後のデザートで終わります。それくらい甘いお菓子はフランスの暮らしには欠かせないもの。パティスリーで働いて、エクレアを朝食に食べる人がたくさんいることに驚きました。

──エクレアは朝食に食べるメニューなんですね!

そうなんです。朝7時の開店に合わせてまずエクレアから焼いて店頭に並べていました。フランスに行く前は複雑な味の構成のお菓子に興味がありましたが、エクレアやパリ・ブレストのような暮らしに根ざした素朴なお菓子を美味しいと感じるようになりました。

11時のオープンにむけて、パンから順にタルトなどの焼き菓子を焼き上げていく。なんて幸せな光景!

 

──日本では感じることのできない体験でしたね

実際に暮らしたからこそ感じられたことはたくさんありましたね。ある時、フィナンシェを食べながら歩いていたら、警察官に「Bon Appétit!(ボナペティ)」と言われて。「ボナペティ」は、日本語で強いて訳すのならば「召し上がれ!」となることが多いですが、フランスではそういう意味ではなくて。通りがかりの人でも「食べること、その時間を楽しんで!」と気軽に伝えられるフレーズなんだと学びました。みんな食べることが好きなんだなと感じましたね。

 

酵母から手作り。挟む具材に合わせてパンを作れるように

──帰国後はどのような仕事をされましたか?

ホテルやパティスリーでパティシエとして働きました。ですが、朝から晩まで太陽を見ずに地下の厨房にこもる環境が辛く、お菓子にそこまで費やせないと感じて。一度お菓子作りから離れ、専門学校「ル・コルドン・ブルー」でパンクラスのアシスタントを担当し、パン作りを学びました。

──パン作りはいかがでしたか?

お菓子作りとは違った楽しさがあり、どちらも好きだなと感じました。パン作りで興味が湧いたのが発酵の工程。果物や穀物、野生の酵母菌を発酵させて、酵母菌を捕まえて自家製酵母でパンを作るようになりました。

発酵と腐敗は同じことで、人に良い影響を与えることを発酵、人に害を及ぼすことを腐敗と呼ぶようです。いろんな菌のせめぎ合いで優位に立った菌の数で発酵か腐敗のどちらに傾くかということなんです。菌の観察と経験を繰り返して、以前よりほんの少し菌の世界が見えてきた気がします。

発酵を知る以前は、一度にたくさん収穫できる季節の果物は腐らせる前にジャムやシロップにして保存していました。今は発酵という手段をとることができるので、より食べ物を無駄遣いすることがなくなりました。

──お店のパンも自家製酵母を使っていますか?

ニシンサンドのバゲットは、いちごから起こした自家製酵母で作っています。自家製酵母は生き物なので、使い続けると元気がなくなるとも言われていますが、この酵母は餌となる小麦を継ぎ足しながら2年間使っています。今も元気に育っていますよ!

──自家製酵母でパンを焼くと、どんなメリットがあるのでしょうか

自家製酵母も種類があるので一概には言えませんが、使う粉、餌の割合、タイミング、育つ環境温度や湿度で変わるのでそれぞれの個性が出ると思います。「グルテンが体質的に合わないけれど、グルマンディーズのパンなら体に負担なく食べられる」という声をいただいたこともありました。

自家製酵母を使うかはパンによって使い分けていて、フォカッチャは軽い食感にしたくてイーストを使っています。「サンドイッチは丼!」と考え、挟む具材に合わせて様々な種類のパンを自由な発想で作っています。

 

お店をすることが、生きがいの一つに

──その後、今のお店を始められたんですか?

そうではないんです。「いつかは自分のお店を!」と思ってはいましたが、その後は知り合いを通じて、田園調布で50年以上続く洋風総菜店「パテ屋」で働きました。後にその隣にあるカフェでパティシエとして働き、カフェのオーナーが退職するタイミングで引き継ぎ、自分のお店を持つことになりました。

──田園調布のお店が今に繋がっているんですね。店名の由来を教えてください

あらゆる物事に食いしん坊でいたい」という想いを込めて、フランス語で食いしん坊を意味するgourmand(グルマン)から「グルマンディーズ」に。始めてみると面白くて、お店をすることが自分の生きがいの一つになりました。お店を引き継ぐ際にまずは半年間という話でしたが、気づけば5年経っていました(笑)。

オリジナルグッズも充実!写真は、ロゴ入りのオリジナルバッグ。取材で大野さんが着用しているのが、オリジナルTシャツ。どちらも店頭とオンラインショップで販売してます。

──西原に移転した経緯を教えてください

自分の年齢を考えて、体力のあるうちに一から自分のお店を持てたらと思い、移転を決めました。常連のお客さんに来てもらいやすいように世田谷区内で探しましたが、なかなか見つからなくて。渋谷区になってしまいましたが、大通りから一本外れた落ち着いた立地が気に入って、今の店舗に決めました。

──確かに幡ヶ谷駅と代々木上原駅のどちらからも離れ、落ち着いた立地ですね

幡ヶ谷は庶民的で、代々木上原はおしゃれな雰囲気。二つの街の間がちょうどいいなと感じました。お店を作るにあたって自分の思想が前面に出るかなと思っていましたが、土地柄や一緒に働くスタッフ、お客さんの影響を受けて、お店は新たなキャラクターを獲得して、生き物のように育っているなと感じます。街の一部になっていくことが実店舗が持つ魅力ですね。

店内に飾られているのは、内装デザインも担当した写真家大野俊輔さんの作品。季節に合わせて変わるので、お店に行ったらぜひチェックを。

 

──近隣のお気に入りのスポットを教えてください

まだゆっくり散策できていませんが「ウミネコカレー」はよく行きます。カレーを食べながらお店の方と映画の話をするのが楽しい時間になっています。ジュエリーブランド「Chikako Yajima」の矢島千佳子さんは友人で、経営者の先輩としてお世話になっています。

──以前の店舗から変化したことはありますか?

店内にオープンキッチンとカウンターを作ったことでしょうか。前の店舗に比べてお客さんとの距離が近いので、お客さんからの「おいしい」という声が聞こえるのが喜びです。

お客さんとのカウンターでの会話がきっかけで「SPレコードの会」というイベントが始まりました。フランス文化やレコードに精通した桑原威夫さんに案内人になっていただき、蓄音機時代のSPレコードを手作りの真空管アンプを使って聴いています。毎回満席で、次回開催も決まっています。

開催された「SPレコードの会」の様子。これまで3回開催されている。

 

──お店で過ごす時間が多いかと思いますが、どうやってリフレッシュされていますか?

山登りと自転車が好きで、山や自然の中に身を置くことでリフレッシュしています。自分と静かに向き合う大事な時間になっていますね。年に一度の長期休暇は海外に旅に出て、美味しいものを食べてインプットします。週に1度の休みは、山に登ったり、明治神宮の芝生で日向ぼっこしたり、映画を観たりして過ごしています。

──これから大野さんが挑戦したいことがあれば教えてください!

今の自分のお店をコツコツ続けていけたらと思います。「去年食べておいしかった栗バターサンドを今年も食べられて嬉しい」とお声をいただいたことが励みになっていて、お客さんの小さな意見を大事にできるお店にしたいです。あとは、個人的に世界の食べ物の考察を書きまとめたいです。

たとえば、中国の葱油餅がインドではパラタに、イタリアではリコッタチーズを詰めたスフォリアテッラに、モロッコではムセンメンへと変化していて。世界の食べ物が、辿った道でどのように変化したかをいつか自分の言葉でまとめられたら嬉しいです。
大野さんが食べ物についての考察を綴るフリーペーパー『旅するひとくち』。レジ横にそっと置かれ、次の号を楽しみにしている常連さんも少なくありません。発行タイミングは、大野さんの気分が乗ったとき!

食いしん坊の愛を感じるひと皿

取材後、お店の看板メニューのニシンサンドをいただくと、バゲットの概念が覆るほどのもっちりとした食感に驚きました。甘露煮で食べる機会の多いニシンも、カリッとソテーされるとまるで別の食材のよう。ワンプレートにはじめての美味しさがこんなにも詰め込まれているとは!

サンドイッチに添えられた紫キャベツのマリネが美味しくて、お皿に残ったマリネ液までバゲットで拭っていただきました。伺うと、インドカレー屋で食べて美味しかった副菜にヒントを得て作ったとのこと。きっと大野さんは生粋の食いしん坊なのでしょう。美味しいものあるところへ軽やかに向かい、味わった感動を「どうぞ!」とお裾分けしてくれる、好奇心旺盛な食いしん坊。そんな食いしん坊の愛を感じるひと皿でした。

デザートは金木犀と金柑のパブロヴァを。牛乳に金木犀の香りをうつして作ったアイスとメレンゲの優しい甘さに癒されました。お菓子作りのきっかけだったメレンゲ。大野さんが当時と変わらず、メレンゲを愛でながら作ることの尊さを感じずにはいられませんでした。
大野さんのおすすめメニューはヌガーサンド。季節でフレーバーが変わり、今は紅茶。ナッツやドライフルーツがたっぷり入ったメレンゲはフワッと軽い食感。

お店のキャラクター・あげるちゃん。ポケットからそっと美味しいものを差し出す姿は、まさに大野さんそのものです。

 

移転して若い女性のお客さんが増えたそうですが、近所のおじいさんや前のお店の常連さんも変わらず足を運んでくれる、と大野さん。近所の少年が、ひとりでバゲットを買いにお使いに来ることもあるのだとか。西原でお店を始めて2年。大野さんが作るお菓子やパンは、いつの間にか街の日常に溶け込み、暮らしに欠かせない存在になっていました。

「食べたい!」と感じたら、直感のままにお店に向かうのがおすすめです。というのも、季節のフルーツを使ったメニューにははっきりとした提供期間がないので、気づいたときには終わってしまっていたなんてことも…。お店のInstagramをフォローして、こまめにチェックするのが確実です。春はいちごや桜、ジャスミン。夏はプラムや杏、そしてパッションフルーツと、同じメニューでも季節ごとに違った美味しさを楽しめます。12月上旬の今は、栗の渋皮煮を使ったシュトレンを販売中。グルマンディーズで季節の移ろいを感じる幸せを体験してみてください。

 

Café Les Gourmandises(カフェ レ グルマンディーズ)
【住所】東京都渋谷区西原2-33-14 DWELL西原 1F
【営業時間】11:00~17:30(ラストオーダー16:30)
【WEB】HP / Instagram / Blog
【定休日】月曜・火曜
【TEL】080-6204-5485

ALL PHOTOS:SHO KATOH

 

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