梅雨が明けたと思えば、一気に押し寄せてきた夏の暑さ。「冷たくて美味しいコーヒーで喉を潤したい!」そんな思いを叶えてくれるカフェが、この夏、代々木上原に誕生しました。お店の名前は「higher.(ハイアー)」。
higher.は代々木上原で音楽レーベル「SWEET SOUL RECORDS」を運営する山内さんが、構想20年以上 をかけて作り上げたお店。カフェの枠を超えた「音楽とコーヒーが交わるカルチャーの拠点」を目指しています。

ビル全体は、あえて装飾を削ぎ落とした無機質な空間として設計。店内の空間・家具デザインを川浪寛朗氏、植物監修をYard Works Inc.が担当。
higher.の魅力のひとつは、バーテンダーの経歴を持つバリスタ・工藤 海さんが生み出すオリジナルブレンドコーヒー。その美味しさは、オープン一ヶ月で近隣の方やクリエイターなど、幅広い人たちがリピーターとして集い、平日でも満席になるほど。
季節や天気で変わるオリジナルブレンド
最近のコーヒーシーンは、生産地の情報が明確に提案されたシングルオリジンが主流。単一の豆で作り上げられる一杯はその土地ならではの味わいを楽しめますが、higher.があえてこだわるのはオリジナルブレンド。
バリスタの工藤さんは、山内さんのお店作りに深く共鳴してhigher.にジョイン。
「バーテンダーの経験から『飲みたい味は季節や天気で変わる』と考えています。エチオピアだけ、ケニアだけという産地の情報でコーヒーの味を決めるのではなく、晴れた日、雨の日といった天気や気候からくるその日のフィーリングに合わせたコーヒーを提案しています」(工藤さん)
その日にぴったりの一杯と聞くと試してみたくなりますが、一体どうやって作られているのでしょうか?
「まず提供する季節の気候や天気をイメージしてコーヒーのテーマを決めます。数百種のリストから数十種の生豆を仕入れ、知人の焙煎所を借りて焙煎。シングルオリジンで抽出して、香りや味をオーディションのように吟味します。抽出した液体を試験管のように混ぜ合わせながら比率を決めます」(工藤さん)
1つのブレンドが完成するまでに約1ヶ月ほどかかるそう。香水の調香師のような繊細な手仕事です。そうして作られたシグネチャーブレンドHIGHERは、トロピカルフルーツを意識し、ライチのようなフレーバーが出るよう4種類の豆をブレンドして作られています。
一口飲むと、コーヒーらしからぬフルーティーさに驚く。コーヒーの自由さと美味しさを改めて感じる一杯。
朝なら「HIGHER」、昼や曇りの日なら「DAY DREAMING」、雨の日は、ぶどうやチョコレートのしっとりとしたフレーバーの「IN THE RAIN」と、フレーバーの提供ラインナップは時間帯や、その日の天気によって変わります。シグネチャーブレンドの「HIGHER」も、今後は季節によって味が変わるそう。
ブレンドを季節ごとに数種類用意するのは、気の遠くなるような作業のはず。無限の組み合わせから素材の魅力を引き出す工藤さんの技術と豊かな感性は、一体どこで培われたのでしょうか。
「前職でバーテンダーをしていた時に、フルーツやハーブなど色々な食材を組み合わせて提供するミクソロジーというスタイルでカクテルを作るお店で働いていました。そこでの経験が今のコーヒーブレンド作りのベースになっていますね。
普段から自分の感覚に素直に、日常的に食べているものにゴールを持つことを大事にしています。毎日家族のご飯を作っていますが、『今日は暑いからビネガーを入れよう』『冬になるとこれが飲みたいよね』と、天気や気候、気分を意識します。その習慣もブレンド作りに生きています」(工藤さん)

工藤さんがオリジナルブレンドにこだわる理由は、味覚のバリエーションや季節感だけではありません。「コーヒーは日常の小さな幸せ」と語る工藤さんにとって、価格と美味しさのバランスも大切な要素です。
例えば、希少なゲイシャ種をシングルオリジンで提供すると、1杯1,200円ほどに値段が上がってしまうそう。日常的に誰もが手にとりやすく、かつ満足できる美味しさを実現する手段として選んだのがブレンドでした。
「高級豆として知られるゲイシャ種を1〜2割ブレンドすることで、高級豆の華やかさを手の届く価格で楽しめるようにしました。世界的な値上げもありますが、バリスタやロースターの技術と工夫で美味しいコーヒーを楽しんでもらえたら嬉しいです」(工藤さん)
店内にディスプレイされている新譜レコードは購入が可能。気になるアーティストやピンと来たジャケットがあれば、ぜひお気軽にスタッフまで。
コーヒーのブレンド名が楽曲から取られているのも音楽レーベルが主催するカフェならでは。店名でもある「higher.」はレーベルが敬愛するディアンジェロの一曲から、「DAY DREAMING」はソウルクイーンの異名を持つアレサ・フランクリンの名曲から、そして「IN THE RAIN」はレーベル所属のNao Yoshiokaの楽曲からと、音楽好きの心をくすぐります。higher.のウェブサイトでは、お店に置いてあるレコードの購入も可能です。
当たり前のように、身体にやさしく
フードもこの店らしいこだわりが詰まっています。現在提供しているのはあんみつ、ソルティブラウニー、スパイシーキャロットローフの3種。あんみつは、植物性素材で白砂糖不使用、グルテンフリーという山内さんのコンセプトを、和菓子作りを軸に活動を行う「嶋ゞ(しまじま)」が監修・開発のもと、試作を重ねて完成させた一皿。
黒胡麻と本みりんを使った黒蜜に、絹豆腐の白玉、寒天、ビーガンアイスクリームが一皿に。アイスにトッピングされた炒り玄米の食感も楽しい。(現在、アイスクリームは抹茶アイスを提供しています。)
ブラウニーは山内さんが家庭で作っているレシピをブラッシュアップしたもの。音楽プロデューサーとしてアーティストのツアーに帯同して世界中のカフェを巡ってきた経験から「世界基準」で作ることを意識し、さまざまなバックグラウンドや体質を持った人に提供できるようにしているそうです。
スイーツ特有の罪悪感を抑え、パンのように食事感覚で食べてほしいという想いから生まれたキャロットローフは、逗子の人気店「andsaturday」が嶋ゞ監修の下、開発。
ヴィーガンやグルテンフリーを前面に打ち出すのではなく、誰もが安心して口にできることを当たり前として提供するのがhigher.が理想としているスタンスです。
「オーツミルクがミルクと同額で選べたり、精製された砂糖を使わず甘みを出したりと、オーガニックや植物性のものを選べるように。スタッフにアレルギーを持つ人がいたことや、僕自身の幼少期の経験もこうした姿勢につながっています」(山内さん)

メニューは「FOCUS(集中)」したいならコーヒー、「CALM(落ち着く)」気分ならハーブティー、「REFRESH(リフレッシュ)」ならソーダ系、「VIBE(ノリよく過ごしたい)」ならお酒、「JOY(楽しみたい)」ならスイーツと、5つの気分・体験別カテゴリーに分かれており、自分がどんな気分で店を訪れたかによってドリンクやフードを選べる仕組みになっています。
フルカスタムスピーカーが奏でる、極上の音楽体験
音響へのこだわりも見逃せません。空間の音楽体験の要となるスピーカーは、山内さんがInstagramで見つけたベルリンのスピーカーメーカーH.A.N.D. HiFiにフルカスタムで発注し、完成までに1年をかけたもの。既製の有名ブランドではなく、現役の音楽クリエイターでもある作り手を選んだのは「志を持つ人に対価を還元したい」という山内さんの考えから。3way構造で高域・中域・低域がそれぞれ独立しており、この音を目当てに訪れる音響マニアも少なくないそうです。
店内で流れるのは、山内さんが長年集めてきた楽曲から厳選した、ソウル・R&B・ネオソウル・アンビエントを軸とするプレイリスト。約4,000曲の中からレーベルスタッフが厳選した1,600曲が楽しめます。
仕事柄、海外出張も多いという山内さん。音楽のみならず、ヨーロッパや欧米諸国のヘルスコンシャスな食事情などにも詳しい。
デザインディレクターの川浪さんがデザインした、スレート波板を用いたオリジナル家具は、株式会社Tree to Greenが制作。
店内には、ハイテーブルが3つとカウンター、そして4人がけのテーブルも用意されています。個人経営店が多いこのエリアで、団体でも入れる広い空間はかなり貴重。実際に訪れる客層も幅広く、赤ちゃん連れの家族から地元の方まで、あらゆる世代が集まっています。
Wi-Fi環境が整っているので作業場所として使う人、本を読みに来る人、音楽を聴きに来る人、コーヒーそのものを楽しみに来る人。higher.はさまざまな目的が重なり合う場所になっていくのでしょう。

会話から広がるカフェのこれから
取材を通じて、山内さんや工藤さんをはじめ、この店に携わる皆さんが挑戦を心から楽しんでいる姿が印象的でした。 季節や天気に合わせたオリジナルコーヒー、誰もが安心して楽しめるフード、志ある作り手と仕立てたスピーカー、実現には高いハードルを感じるようなアイデアも、チームで妥協せず、面白がりながら形にしていました。
そんな熱量あふれる姿に惹かれて人が集まり、会話が生まれることで、この場所から新しいコミュニティや価値が育まれていくのではないでしょうか。コーヒー、音楽、食、それぞれのこだわりが重なり合うこの場所は、これからますます代々木上原のカルチャーの拠点になっていきそう。
8月8日(土)にはお客さんとスタッフの会話から生まれた「DESIGN(er) NIGHT」を開催予定。ゆくゆくはアナログレコードをかけるイベントなども企画しているそうです。気になる方は、ぜひInstagramで情報をチェックしてくださいね。
higher.
【住所】東京都渋谷区上原一丁目29番10号 OPRCT 1F(代々木上原駅 南口1より徒歩1分)
【営業時間】9:00-17:30 不定休 ※最新の営業日時はInstagramをご確認ください。
【WEB】HP / Instagram
ALL PHOTOS:SHO KATOH
RELATED
関連記事