メキシコで愛される老舗のトルティーヤメーカーが、ついに日本へ上陸。1階はお店で、2階はオフィス。店先では、背中にロゴがプリントされたお土産Tシャツも売られている——。
そんなブランドの物語を、インスタグラムで見かけたことがある人もいるかもしれません。しかし実はこれ、すべて架空の設定。写真に写っている現地のお店の正体は、なんとサンフランシスコのコインランドリーでした。

この遊び心あふれるストーリーから生まれたのが、代々木上原にある「New Classic Tortilla Club(ニュークラシック トルティーヤクラブ)」。とうもろこしの伝統製法でトルティーヤをつくる、国内初の専門店です。
掲げるコンセプトは「ブームではなく、カルチャーをつくる」。オーナーの片山さんに、お店の成り立ちから、これからの野望までをたっぷりと聞きました。

New Classic Tortilla Club(ニュークラシック トルティーヤクラブ)」のオーナー 片山 純(かたやま じゅん)さん
架空のメキシコから始まったブランド
店舗は代々木上原駅すぐそばの複合施設「CABO」に入っている
片山さんのキャリアのスタートは、飲食とは無縁の内装リフォームの世界。会社員として働くかたわら「将来はトルティーヤメーカーになる」と心に決め、まずはブランドだけを先に立ち上げたといいます。
「メキシコのトルティーヤメーカーが日本にやってきて、トルティーヤを日本の主食にしていく——という架空の物語をつくったんです。現地のお店という設定の写真は、実はサンフランシスコのコインランドリー。看板の部分だけ合成しました(笑)。現地にいたおじいちゃんの背中にロゴを合成して『お店で売っているお土産Tシャツです』って、グッズだけ売ったりもしていましたね」
店名をプリントした半袖Tシャツ
架空のブランド活動は約3年。空いた時間に投稿をしながら、ときにはポップアップストアでフードも提供し、お客さんの反応を確かめてきました。その後、会社を辞めて家具の木工所として独立。その翌年、いよいよ代々木上原に実店舗をオープンします。
アボカド一切れのタコスに受けた衝撃
——そもそも、トルティーヤに惹かれたきっかけは何だったのでしょうか。
「もともとハンバーガーやピザと同じ感覚で、タコスが好きだったんです。2018年に三軒茶屋に『Los Tacos Azules(ロス タコス アスーレス)』というお店ができて、そこでアボカドが一切れのっただけのタコスを食べたら、衝撃的においしくて。アボカド一切れでこんなにおいしいわけがないと思って調べたら、トルティーヤの作り方がそもそも違ったんです」
その秘密は、メキシコの伝統的なとうもろこしと、それを製粉する技術にありました。片山さんはなんと、製粉機ととうもろこしをメキシコから輸入し、自宅で製粉に挑戦。すると、驚くほどおいしいトルティーヤが完成したそうです。
「これは日本で主食を目指せるポテンシャルがあるなと。調べたら、その製法でつくっているメーカーはアジアにまだ一社もなかった。じゃあ最初にやろう、と」
「うちが製麺所のようになれたら」

原材料には複数のコーンが使用されている
同店のトルティーヤを支えるのは、「ニシュタマリゼーション」と呼ばれる、紀元前から続くメキシコの伝統製法。乾燥とうもろこしを石灰と一緒に煮込み、一晩ほど浸け置いてから、水分を含んだまま製粉。それをこねて焼き上げます。
「石灰で煮ることで表皮が溶け出して、化学反応で香りと栄養価が一気に上がるんです。お米のようなもちもち感と、パンのようなふっくら感があって、ちょうどパンとお米の間のような食感になります」
一方、製粉したものを工業的に乾燥させると“トルティーヤ用の粉”ができますが、その過程で香りや栄養は飛んでしまうのだとか。
焼く前の状態のトルティーヤ
「いまの日本は、ラーメン店はどんどん増えているのに製麺所がひとつもない、みたいな状態。うちがその製麺所の役割を担えたらと思っています」
本当はトルティーヤ屋さんがやりたかった
——お店ではタコスも味わえますね。
「メキシコでは、トルティーヤ屋さんがコンビニみたいに街にあって、子どもが小銭を持って量り売りで買って帰るんです。タコス屋さんも、生地はそこで仕入れるのが普通。本当はトルティーヤ屋さんとして始めたかったんですが、いきなり量り売りだけだと誰も来ないので(笑)。タコスはあくまで、トルティーヤのおいしさを伝えるためのものなんです」
前日の夜にニシュタマリゼーションをし、翌朝製粉したトルティーヤを焼き上げたトルティーヤ。真空パック加工を施した後に急速冷凍している。
店頭では、焼きたてのトルティーヤを1gあたり6円で量り売り(1枚あたり100円前後)。10枚以上なら予約しておくのがおすすめです。真空パックの冷凍トルティーヤも、フライパンで温め直すだけで柔らかさがよみがえる優れもの。オープンから1年後には工場も立ち上げ、トルティーヤやサルサ、チップスをスーパーへ卸すまでに成長しています。
代々木上原を選んだのは「駅から近く、理想家賃以内、健康意識の高い人が多そうな街」という条件から。この建物のブランディングを手がける方のインスタグラムで出店者募集の投稿を見つけ、すぐに連絡したのだとか。
きんぴらにも、ひじきにも合う主食
実際にお店を開いて驚いたのは、グルテンフリーを意識する人の多さ。とうもろこし100%のトルティーヤは、小麦を控えている人にとってもうれしい存在です。
「本物のコーントルティーヤをずっと食べたかった、という人もこんなにいたんだと。最初はメキシコの方がすごくたくさん来てくれて、店に入った瞬間の香りだけで『おばあちゃんを思い出す』と言う人もいました」
——日本人にとっての、お味噌汁のような存在なんですね。

「そうですね。フレッシュトルティーヤは毎日のように予約が入っています。タコスパーティー用が多いですが、体感で2〜3割の方は日々のご飯として食べてくれていますね。伝統製法だとカルシウムが白米の約12倍、食物繊維も玄米より豊富になるので、健康目的の方も多いです」
片山さんのおすすめは、トルティーヤだけを買って帰り、家のおかずを包むスタイル。
「メニューの具材にきんぴらを入れているのも『こういうのもアリだよ』と知ってもらうため。ひじきなんかも全然合います。コンビニでお惣菜を買って、トルティーヤと一緒に食べるだけでもいいんですよ」
在来種のとうもろこしを未来へ
こだわりは、原料にも及びます。メキシコで育てられてきた在来種のとうもろこしは、かつて200種以上あったと言われるものの、大量生産向けの品種への切り替えが進み、いまでは60種前後にまで減っているのだそう。
「うちがトルティーヤを主食に近づけるほど、在来種を育てる農家さんの助けになる。そんな、みんながハッピーになる文脈がいいなと思って、現地価格の4〜5倍で買い付けています」
一方、日本に輸入されるとうもろこしの多くは、家畜の飼料用に収量重視で改良されたもの。トルティーヤに向くおいしいとうもろこしは、国内ではなかなか見つかりませんでした。
転機は昨年。知り合いのジビエ猟師から「俺の村に在来種のとうもろこしがあるぞ」と声がかかります。山梨県・丹波山村で、途絶えさせまいと細々と受け継がれてきた赤いとうもろこしでした。
©New Classic Tortilla Club
「試しに製粉させてもらったら、メキシコのものと遜色ないくらいおいしくて。今年から鹿児島で栽培を始めて、先週ちょうど収穫したところです。製粉すると、小豆色のトルティーヤになるんですよ」
農家さんからは国内の市場価格の約5倍で買い取りつつ、コストは輸入の約4分の1に。農家さんも潤い、トルティーヤもより手に取りやすい価格へ——。一枚のトルティーヤの向こうに、そんな大きな循環が描かれています。
収穫時の様子 ©New Classic Tortilla Club
目指すはタコス界のマクドナルド
——最後に、今後の展望を教えてください。

「もともとはメーカーとして、大手のタコスチェーンにトルティーヤを卸していけたらと思っていたんです。でも日本には、なかなかタコスチェーンができない。だったら自分たちでつくろうと。マクドナルドやバーガーキングみたいなノリの、タコスのファストフードチェーンをつくっていきたいですね」
最近はハイビスカスの味が爽やかなオリジナルドリンクも開発中。スーパーへの展開で「ちょっと真面目にやりすぎていた」と、原点の遊び心も取り戻しつつあるようです。
ブームは、いつか過ぎ去ってしまうもの。けれど、日々の食卓に根づいたものは、やがて文化になります。
ごはん、パン、そしてトルティーヤ。そんな選択肢が当たり前になる日は、案外すぐそこまで来ているのかもしれません。まずは代々木上原で、焼きたての一枚を味わってみてください。
New Classic Tortilla Club(ニュークラシック トルティーヤクラブ)
【住所】東京都渋谷区上原1-32-3 CABO 104
【営業時間】11:00〜18:00
【定休日】2026年9月は無し。月によって異なるためHPを要確認
ALL PHOTOS:SHO KATOH
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