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創業100年!代々木上原フジヤベーカリーが愛され続ける理由

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創業100年以上の老舗ベーカリーは、毎日食べたくなる飽きないおいしさのパンがずらり

有名シェフが手がけたベーカリー、日本初上陸のベーカリー、ヴィーガン向けのベーカリー……。都会にいると、いろんな場所においしいパン屋さんがあって、毎日のように味わいの異なるパンを楽しめます。それはすごくありがたいし、フランスパンやドイツパンなど、海外ルーツのパンを食べたくなることもあるので、こだわりのパン屋さんが増えることはもちろん嬉しい。だけれども、地元の商店街にあるいわゆる「昔ながらのパン屋さん」のクリームパンが無性に食べたくなる時ってありませんか?
小さい頃から食べていたメロンパンやクリームパン、チョココルネは今でも味を鮮明に思い出すことができるし、母親と「どれにしようか?」と楽しく選んだ記憶が昨日のことのように浮かんでくるのです。代々木上原の「フジヤベーカリー」も、この町にずっと住んでいる方にとって、きっとそういう存在だと思います。

代々木上原駅東口から徒歩2分ほど歩いた上原駅前商店街にある「フジヤベーカリー」はなんと創業1930年!!100年近く前から続く老舗のパン屋さんです。やわらかく、シンプルなパン生地とこだわりを感じる具材の惣菜パン、お母さんがお家でつくるスイーツのように甘すぎないお菓子パンなど、毎日食べても飽きないおいしいパンが評判です。

「夫は3代目なのですが、初代であるおじいちゃんは御殿場の出身で、最初はそっちの方で開業されたみたいです。戦後は配給のためのコッペパンをつくっていたと聞いたことがあります。そこから代々木上原に来て、義父が生まれてからはずっと今の場所です。義父には兄弟がいて、代田橋や永福町でもそれぞれパン屋を営んでいらしたそうですね」

と、教えてくれたのは店主の和田篤尚さんとともに店を切り盛りする和田安子夫人。

店主とともに店を切り盛りする和田安子さん。

「フジヤベーカリー」という名前は初代が御殿場生まれであることから、富士山にちなんで命名されたのだそう。

「富士山は縁起がいいので、昔から富士というのはよく使われていたんですよね。私が嫁いできた頃、ショッパーには富士山の絵が描かれていました。よくペコちゃんの不二家さんと間違えられるのですが、まったく関係ありません(笑)」

店内には、カレーパン、バタール、レーズンロール、焼きそばロールといったスタンダードなものから、鶏からあげロール、たまごサラダ照り焼きチキンロール、黒糖おいも蒸しパンなどお店のこだわりを感じるおいしそうなパンがずらり。

「すごくおしゃれなパンとか高級なパンをつくるのではなくって、もっとみなさんの日常に密着したパンがつくりたいなと思ってずっと続けています。最近は全国レベルで有名なお店が代々木上原にはたくさんできましたけれど、そういったお店とは別ものと考えています。学校から子どもが帰ってきたときにおやつがないからと買いにきてくれたり、近所のお店の方がまかない時間の間に買いにきてくれたりとか、そんな感じでつかってもらっていますね。お客さんはほとんど地元の方ですよ。結婚して代々木上原を離れたけど、久しぶりに戻ってきたらまだうちのパン屋があったから嬉しかったと言ってくださった方もいましたね」

取材をしている間にも、家族連れや学校帰りの学生、年配のおばあちゃんがふらりと訪れてパンを買って帰ります。

「パンの種類はね、昔からそんなに変わっていないんですよ。主人が子どもが好きなので、買いにきてくれるお子さんと話していると、『電車パンつくって〜』とか、結構頼まれるんですけど、さすがに電車は無理だな〜なんて言って、子ども向けにつくったのが『チョコにょろパン』と『ゾウさんのミニクリームパン』です」

お客さんの声に耳を傾けながら、自分がおいしいと思えるパンをつくる

「いやいや、やっと落ち着きました。ごめんなさいね〜」
と、奥から店主の篤尚さんが出てきてくれました。100種類以上のパンを毎日焼き上げ、いつ食べても変わらない味わいを生み出し続けている篤尚さんに、パンづくりへのこだわりを伺いました。

パンづくり歴35年以上。お客さんとの会話を楽しみながら毎日食べたくなるパンづくりに挑戦し続けている店主の和田篤尚さん。

「自分がおいしいと思えるパンをつくる、ということを大切にしてやってきているだけで、特別なことは何もないんですよ。たとえば国産小麦にこだわっていたとして、国産ってそもそも供給量が少ない上に個性が強いので、毎年味にばらつきが出るんです。同じ銘柄のものを発注してもその年によって味が違うので、扱いづらいんですね。国産だけにこだわってやっている店って大変だと思いますよ。うちは大手製粉メーカーの輸入小麦粉を使っているので、いつでも安定した味をお届けすることができるんです。いいものができたらいいですが、変なものができちゃったらお客さんは許してくれないので、値段も同じですから、できるだけ均一な味をキープするというのは意識しています」

飽きのこないパンをつくるために、少しずつ味を変えることもポイントだと言います。

「微差なんですけどね、わざわざ味を変えました! とお店に書くほどでもない程度に調味料などを変えて味をいじっています。試作したものは妻やバイトの女の子にまず食べてもらい、反応を見ます。カスタードとかクリーム系のパンなんかは、若い子たちはいろんなお店のものを食べてるから、『これはちょっと』とか、『いまいちですね〜』とはっきり言ってくれるんですよ(笑)。そういうことはやっていますね。あと、おたふくソースが好きなお客さんがいて、いつもソース多めでと言われるんですが、都度対応することもしますし、そんな感じでお客様の要望に応えたり、こんなパン食べたいというお声を参考にさせてもらっています」

「サンドイッチなんかは毎日卵を茹でるところからやっていますが、塩加減やマヨネーズの量は変えていませんね。これはフジヤさんの味だねって言ってもらってるので、変える勇気がないだけなんですけどね(笑)」

変えることと変えないこと、そのバランスをとりながら、おいしいパンを焼き続ける。お客さんの声に耳を傾けながら、和田さんの挑戦は続きます。

気になる4代目候補は? と安子さんに訊ねると。
「二人子どもがいるのですが、それぞれ会社でやりたい仕事をやっています。気が変わらない限り、継ぐってことはないでしょうね(笑)。ほかにこの店をやりたいって言ってくれる人がいたら続いていくのかもしれませんが。個人経営の難しさを思うと、子どもたちにやらせるのは酷ですよね。私たちは長年やっているからのらりくらりとできているけれど、いきなりパン屋をやれっていっても難しいと思います」

昨今の小麦や卵の値上げで大変なことも多いけれど、それでも毎日買いにきてくれるお客さんのために頑張っていきたいとも話してくれました。

「実は、2~3年前に主人の両親が続けて亡くなったんです。それまでは両親の面倒も見ながらお店もやって、主人は大変だったと思うんですけど、いざ亡くなるとご両親の残したものが大きかったなあって。やっぱり、親がいなくなった寂しさってありますし、常連さんがあたたかい言葉をくれたりすることが励みになっているんだと思います。主人はすごく現実的なタイプなんですが、ご両親は本当に、お客さんが喜んでくれたらなんでもいい! ってタイプだったんです。主人に言わせれば見栄っ張りだというのですが、なんだかんだ主人も子どもに弱いので、子どもの笑顔を見たときにやりがいを感じているんだろうなって思います」

ショッパーや看板は美大卒の安子さんデザイン!

「フジヤベーカリー」といえば、かわいいパン職人のイラストが描かれたサーモンピンクのショッパー。実はこれ、多摩美術大学卒の安子さんのデザインなのだそう。和田さんと結婚して一緒にパン屋さんで働くことになるまでは、バッグデザイナーの仕事をされていたというから驚きです。

「私が一年生の時に四年生にユーミンがいたんですよ。だいぶ昔ですけどね。外の看板も私主導で主人と制作しました。あとは商店街のフラッグとかもデザインさせていただきました。今はすっかりパン屋さんですが、パンづくりはすごくクリエイティブな仕事なので、たとえばオードブルの注文があったときなんかの盛り付けを楽しんでやっています」

安子さん制作の赤い看板。

最後に、昔の代々木上原はどんな雰囲気だったのかとたずねると、すっかり景色が変わってしまったと言います。

「お肉屋さんも八百屋さんもみんななくなっちゃいましたね。私がここに来たときは高架下がまだ荒地で、商店街もできていなかったのですが、駅前にお店ができるたびにこちらの商店街は打撃を受ける、ということの繰り返しでしたね。生き残るのがみんな必死で、代替わりのタイミングで店を畳む方ばかりでした。定食屋さんは特に少なくなりましたね。昔ながらのやり方では到底続けられないので。最近でも、雑誌で取材されるような店であっても数年とか、そんなに長く続けられているお店は少ないような気がします。とはいえ、商店街の取り組みはとても活気があっていいですよ。コロナの前までは、毎年季節のイベントを頻繁に開催していましたし、外国人が多い街ということもあって、ハロウィンは本当に盛大にやっていました。また徐々に戻ってきている感じもあるので、子どもたちの嬉しそうな顔を見られるかと思うと楽しみですね」

奥様のことを「安子ちゃん」と優しく接するご主人が印象的。仲睦まじい二人の雰囲気も「フジヤベーカリー」さんの魅力です。

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取材後、「フジヤベーカリー」さんで購入した『チョコにょろパン』と『ゾウさんのミニクリームパン』を子どもに渡すと一瞬でペロリ。柔らかくて、甘すぎなくて、さらには一瞬で子どもが笑顔になるパンってそんなにないですよね。パンを買いに行って、世間話をしたり、こんなパン食べたいんだけど、なんてワガママも聞いてくれたり、パンはもちろんだけど、店主に会いたいから寄っちゃう。街からなくなって欲しくないお店ってそういう場所なんですよね。ああ、フジヤベーカリーさんが近くにあったらなあ、とひしひしと感じる今日この頃です。

フジヤベーカリー

【住所】〒151-0066 東京都渋谷区西原3丁目2−5
【営業時間】7:00〜20:00 (日曜定休)
【TEL】 03-3466-2011
【WEB】フジヤベーカリー X(twitter)

ALL PHOTOS:SHO KATOH

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